金木犀。

大分空が高く、青く、澄んできましたね。

　金木犀の香りが
　わたしを探して　とささやく様に
　さわやかな秋の空気に混じって
　甘い匂いで誘ってきます。

　私は　大抵その甘やかな誘惑に惑わされ
金木犀の木の傍まで導かれてしまうのです。

　匂いたつ木の下で
ちりばめられた橙色の小さな花を見つめていると
自分が　花に　木に　包まれているような
一枚　橙色のベールをかぶったような
不思議な　歓喜にも似た気持ちになります。

　小さな頃に　その気持ちを閉じ込めたくて
小瓶に沢山の花を詰めて
机の中の宝箱に閉まっておいたら
　何だか得体の知れない茶色い物体になっていました。

金木犀は、秋に感じるから歓びなのだと
しみじみ実感した出来事でした。

　それからは
毎年、金木犀の香りがする頃
一人静かに　歓んでいるのです。